初めて三扇ジュエリーの工房へ行ったのは、まだサラリーマンをやっていた2002年の秋のことでした。
会社を辞めて彫金を仕事にしようと、休日を利用して大阪の宝飾の専門学校に通い始めて半年が経ったころのことです。

 

工房へ行く前は、

“静かな環境でひょっとしたら音楽などが流れるところで、黙々とキレイな指輪やペンダントなどを作る作業をしているのだろう”
などと想像しておりました。

 

ところが、実際に行ってみてビックリ!!

 

工房内はお世辞にもキレイとは言えないところで、様々な工具や装置がところ狭しと並び、3人ほどの職人さんがリューター(ハンドグラインダー)を使って指輪などを磨いていました。

その手元には集塵機から伸びたホースがあり、そのリューターや集塵機の音がギュイーンギュイーン、ゴーゴーと鳴り響いていたのでした。

 

2003年3月末で会社を退職し、4月から三扇ジュエリーでの修業生活が始まる訳ですが、ここでの私の仕事の内容について理解して頂くために、この業界の仕事の内容について少し説明しましょう。

一部の作家さんを除いて、一般の宝飾品製造は分業で成り立っています。

 

 

その工程とは、

1. デザイン
: 文字通り宝飾品のデザインを考えること。デザイナーの仕事です。

 

2. ワックス制作
: 1.を元にワックス(ロウ)を削って完成品の形を作ります。最近は、1.はCAD(コンピューターを使って設計)で2.は3Dプリンターで行なうこともあります。

 

3. ロストワックス法でシルバーの原型制作
: そのワックスを元に鋳型を作成して、まずは価格の安いシルバーで鋳造。大まかに磨いて製品の原型を作ります。

 

4. ゴム型制作
: その原型を使ってシリコンゴムで型をとりゴム型を作ります。このゴム型を使えば製品と同じ形のワックスがいくつでも簡単に作れます。

 

5. 貴金属で鋳造
: 受注数に従い、ゴム型を使ってワックスを作り、ロストワックス法で鋳造。

 

6. 研磨
: 鋳造上がりの品物をきれいに磨きます。

 

7. ダイヤなど宝石の石留め
: 指輪などに宝石を固定する工程。

 

8. 仕上げ磨き
: 完璧に磨き上げ、商品として完成させます。

 

9. 検品

 

この中で、三扇ジュエリーでは主に6.~9.の工程を、新製品が企画された場合は、2.~3.も行なっておりました。

 

東京のジュエリー卸販売会社から貴金属で鋳造された品物とそれに留める宝石が送られてくる。
鋳造されたリングやペンダントをピカピカに磨き、ダイヤモンドなどの宝石を留め、仕上げ磨きをして製品となったものを、またその東京の会社に送るという仕事、いわゆる下請けです。

そして私の担当は6.と8. つまり磨きです。

 

鋳造で上がって来た段階のプラチナやゴールドで出来た指輪などは、表面はザラザラで鈍く光る程度です。
それを、リュータを使ってキレイに磨き、社長に石留めをしてもらい、リューター、バフで最後の仕上げ磨きをして製品に仕上げる訳です。

 

 

と、言葉で書けば簡単ですが、この磨きが本当に大変!

 

リューターに品物の形状に適した先端工具(ポイント)を付け、研磨剤を付けて磨くのですが、なかなかキレイになりません。
しかも研磨の摩擦熱で品物がとても熱くなる。
手袋をはめていても指先が半分やけどするような状態。
リューターと集塵機の唸る音でうるさい。

 

 

磨きは、製品の品質を決める重要な要素ですが、本当にキレイに磨くにはとても時間が掛かります。

 

当時、三扇ジュエリーでは4人の職人が研磨、社長一人が石留めという分担で、これからもいかに磨きに時間がかかるかが分ります。

しかも、社長は
「仕上がりでは、よそには絶対に負けない!」
と最高の仕上げを目指しておりましたので、仕上がりのチェックは厳しいものでした。
にもかかわらず、磨き工賃の安いこと!

 

修業を始めて間もない頃、こんなことがありました。

 

磨きの師匠であるやっさんから、
「これ、1時間磨いてみ!」

渡されたのは、鋳造上がりのプラチナ製でヘアピンの様に曲がって更にねじれたデザインの長さ1.5cm程度のペンダントトップでした。

 

このペンダントは粗磨き→ダイヤの石留め→仕上げ磨きを経て製品となり、店頭では30万円ほどの値札がつく品物です。
その研磨工賃がナント1,000円程度!安すぎます。(石留め工賃は別に加算されます)

 

リューターのポイントを色々と変えながら一生懸命磨きましたが1時間経っても石留めが出来る状態までは磨けませんでした。

石留めが出来る状態まで磨いた後、石留め、更に仕上げ磨きまで行なって発注元から支払われる磨きの加工賃が1,000円です。

2時間かけて、粗磨きと仕上げ磨きが出来たかどうか。つまり、時給500円にも満たない仕事しか出来ていなかった訳です。

 

研磨は商品の価値を高める大切な工程ですが、この加工賃(高いものでも2~3千円)に見るようにその作業に対する評価はなぜか低いのです。

 

従って、沢山の数を磨かなければとても仕事として成り立ちません。
そんな状態で、月曜日から土曜日は朝9時から夜9時まで、来る日も来る日も磨き磨きの日々を過ごしました。
休みは日曜日のみ。

 

磨き師匠のやっさんとは、お互いに星好きな点などで話しが合いました。

ある日、やっさんが

「この前、帰りに明けの明星がキレイだった。」

とか、

「徹夜明けの帰りに云々・・・」

ん? 明けの明星?? 徹夜明け???

 

そう。工賃は安い、仕上げにはこだわる、従って時間は掛かる、安い工賃で完璧な仕上げで納品するので、発注元は三扇ジュエリーに仕事を沢山持ってくる。

そんな訳で、社長とやっさんは休みは無し。徹夜での作業もざらで、年に休むのは元旦くらい。
とにかくムチャクチャ忙しい工房でした。

 

そういえば、チオビタドリンクなどの箱がそこら辺りに置いてあったり、ある時など、社長たちはカフェインの錠剤を飲みながら
作業をしていた事もありました。
私は飲みませんでしたが(^^;、深夜0時過ぎまで仕事をしたことも何度もありました。

 

 

正直、エライところに来たなぁと思ったこともありました。
しかし、これが最終形態ではありません。ここで仕事を覚えて自分で仕事を始めるための第一歩だと思い、修業の日々を送ったのでした。

 

この時娘は小学校2年生。お金がかかる時期まではまだ時間があります。
頑張らねば!

 

次回 続・三扇ジュエリーでの修業の日々 へ続く

代表プロフィール

春日井 利光
春日井 利光
むちゃくちゃ忙しい宝飾店の工房で10年の修行の後、独立。
ある二組のご夫婦との出会いをキッカケに、二人で作るマリッジリング(結婚指輪)のプログラムを始める。 お二人の大切な思い出と共に残る結婚指輪の手作りを全面的にサポートしています。
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